かすてらすねお。

見聞録的ななにか。

村上春樹『アンダーグラウンド』を読み始めた

 村上春樹の寄稿(https://mainichi.jp/articles/20180729/ddm/003/040/004000c)を読んで地下鉄サリン事件に関心を持ったので『アンダーグラウンド』を入手して少しずつ読み進めている。途方もない労力をかけて「被害者」にインタビューを行って、それを村上春樹が丁寧に文章に起こしている。特に、センシティヴな情報を扱う点について細心の注意を払い、「被害者」の意思を最大限に尊重する姿勢をとったことが「まえがき」で述べられている。フィールドリサーチの手法を学んできた人間として、このような内容は非常に関心が持てる。

 次に引用する文章で述べられるような「暴力」の遍在性とでも言えそうなかれの問題意識に惹かれている。
 “その気の毒な若いサラリーマンが受けた二重の激しい暴力を、はたの人が「ほら、こっちは異常な世界から来たものですよ」「ほら、こっちは正常な世界から来たものですよ」と理論づけて分別して見せたところで、当事者にとっては、それは何の説得力も持たないんじゃないか、と。その二種類の暴力をあっちとこっちとに分別して考えることなんて、彼にとってはたぶん不可能だろう。考えれば考えるほど、それらは目に見えるかたちこそ違え、同じ地下の根っこから生えてきている同質のものであるように思えてくる。” p.16
 「二重の激しい暴力」というのは、サリンの一次被害と、その後の職場における排除の二次被害を指している。今の社会で起きていることを思い返すと、この社会と暴力の関係性というのは20年間変わっていないのかもしれない。「千代田線」の章を読みながら、そんなことを考えています。

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 このハードカバー買った後にハンディな文庫本があると知って、それならもっと手軽に読みやすかったのにと、ちょっと後悔。けっこう厚くて重いです。

(筆者Facebookの投稿より転載)