かすてらすねお。

見聞録的ななにか。

トランスジェンダー概念の「一般化」

トランスジェンダー概念の「一般化」

 お茶の水女子大学奈良女子大学トランスジェンダーの受け入れを発表したとする2018年7月の報道が記憶に新しい。お茶の水女子大学の室伏学長によれば*1、従来の学則で定められた「女子」という入学資格が実質「戸籍上の性」であったのに対し、今度の受け入れにあたっては、入学資格を「戸籍、または性自認が女子の場合」と明記するのだという。そして、今度の受け入れは突然出てきた話ではなく、2016年の問い合わせをきっかけに、2年の時間を経て丁寧に検討が重ねられてきた上での決定である。

 また、室伏学長は、2016年ごろから他の女子大学と様々な情報交換を行ってきたこと、2017年10月の日本女子大学連盟の総会ではトランスジェンダーの受け入れというテーマが話題になったこと、15年前から作成している東京、日本、津田塾、奈良、お茶の水の5女子大のコンソーシアムでも情報交換が行われていたことを説明している。これらのことから、女子大学間での情報交換が元々活発であったことが分かる。したがって、今後も日本の女子大学の大きな流れとしてトランスジェンダーの受け入れが進んでいくと予想されるだろう。

 たしかに、これらの取り組みの先進性は注目すべきである。しかし、それよりも、一連の報道に目を通した筆者が興味深く感じたのは、トランスジェンダーの話題を扱っているにもかかわらず、トランスジェンダーという概念自体について詳しい説明に紙面を割く記事がほとんど見当たらなかった点である。これをどのように分析したらいいのだろうか。

 2014年の各マスコミによるレインボープライド・パレードの報道、および2015年の電通ダイバーシティ・ラボによる「LGBT調査2015」の公表などを大きな境目として、性的マイノリティの話題を扱う動向は目立つようになり、テレビニュース番組においては「LGBT」特集が組まれることが珍しくなくなった。そして、そのような過程を経るなかで、トランスジェンダー概念は性的マイノリティを総称する「LGBT」という言葉とともに、一般的なものになっていった感がある。トランスジェンダーの意味内容はひとつの社会的前提になったと言ってもよいだろう。

 このことを踏まえると、上述した一連の報道においてトランスジェンダー概念の詳述が行われなかったことのひとつの理由として、トランスジェンダー概念が説明不要の前提であったことを考えることができる。むしろ、このような現象を通じてトランスジェンダー概念の「一般化」が垣間見られるという見方も出来るだろう。

 

今後書いていくこと

 トランスジェンダー概念が歴史的な概念であることが見落とされるのを懸念している。それは、トランスジェンダーの出自がどうで、日本に輸入されたのはいつで、今日のカテゴリはどうでといった「歴史」ではなく、トランスジェンダーが依り代としている「性自認」という概念が、人間の性を説明するものとして機能するようになった「歴史」についてである。このことについて、つぎは石田仁氏の主張に沿って整理しながら、「性自認」そして「トランスジェンダー」の歴史性を見ていきたいと思う。

*1:ハフポスト「お茶の水女子大「性には多様性がある」 トランスジェンダーの女性を受け入れる理由を説明」https://www.huffingtonpost.jp/2018/07/09/ochadai-kaiken_a_23478268/

 2018年9月2日取得