粉山カタ先生の『不可解なぼくのすべてを』という漫画があります。pixivコミックで連載中で,1話・2話と最新話が無料公開されているので,ぜひご覧になってみてください。この記事では,単行本1巻の内容を知っているという前提で話を進めます。
「男の娘」という肩書きをめぐって,登場人物たちの言葉から見え隠れする,それぞれに抱かれる願望や葛藤といったものが,大変にリアルに感じられました。少なくともこの作品における「男の娘」とは,付け外しのきくとってつけたものではなく,そのキャラクターの存在様式と関わりをもつものだからです。このことは,粉山先生が「もぐも」を生み出すにあたって抱かれた,「このキャラはなぜ『男の娘』なのか?」という疑問の言葉に端的に表れています*1。
したがって,ただかわいい「男の娘」が出てくるだけで十分とか,「男の娘」をファンタジーのレベルで楽しんでいたいという読者には,この作品はちょっと楽しみにくいかも知れません。松本トモキ先生の『プラナス・ガール』をもっと斬り込んでいくような話が読んでみたい,と考えるなら,向いているかもしれません。
プラナス・ガール 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)
- 作者: 松本トモキ
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2013/05/17
- メディア: Kindle版
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ところで,少し詳しい人になると,もぐもがいわゆる「Xジェンダー」*2にあたることに気がつくと思います。作者も『Xジェンダー』という言葉をたまたま知ったことをきっかけに『不可ぼく』が生まれたと「あとがき」で述べています。しかし,作中でこの言葉は登場しません。
実際これでいいと思います。「哲」や「Question」のスタッフたちにとって,「もぐも」は容易に想像し難い存在として描かれています。ここで仮に「もぐもはXジェンダーだ」という説明がなされると,読者はXジェンダーという言葉に引っ張られてしてしまう可能性があります。また,「もぐも」がXジェンダーであると言葉の上で捉えたとして,それは「もぐも」のすべてを理解できたことにはならないようにも思います。恐らくそれは粉山先生の意図するところではなかったのではないかと推察します。
ジェンダー・セクシュアリティを専門とする大学院生であり,トランスジェンダーの当事者でもある自分は,つい「わかりやすさ」を意識して安易に専門用語に飛びつくというか逃げてしまいがちなので,そういった言葉を使わずとも自分の抱えるような願望や葛藤を表現できるところが,この作品のすごいところだなと思います。
第1話・第2話を読んで迷わず第1巻を買ってよかったと思います。
続きが大変待ち遠しいです。
粉山カタ先生Twitter→@kt_konyam
『不可ぼく』公式Twitter→@fuka_boku