アアガンで夕食を(2)
(あらすじ)腹が減ったぞ!千を出せ!
窓を見て外が暗いことだけを一瞬で確認して、振り返って壁の時計を見ると5時半だった。そのまま帰宅すればちょうど家族と夕飯を食べられるが、連日の授業疲れで気晴らしに外食がしたかった。行くなら誰かと行きたいのでTwitterでつぶやく。
@suneo3476Pro 酢NEO だれかお夕飯行きませんか!
2012年07月19日 17:22:24 via Tween
正直今までの反応率から反応が来る自信はまったく無かった。新しいつぶやきが上から流れ、自分のツイートが下に流され、タイムラインが流れていく。画面から自分のツイートが消えたら諦めるか、と椅子に持たれながら画面を見つめていると、背景が赤で強調されたリプライが現れた。
並行作業ほど苦手なものはないし、ましてや会話しながら自転車などリスクが高すぎる。狭くてガタガタな歩道が多く交通量も多いので、たぶん死んでも裁判で文句は言えない。現在目的地を目指して自転車に乗って相方を案内している。自分が振り返っても大丈夫なタイミングを見計らっては、相方が後ろからちゃんとついてきているかを確認する。あー生きとる。生きて走っとる。一瞬後にトラックが突っ込んで死ぬ可能性秘めながら走っとる。お願いだから死なないで。トラックとかありえん所から突っ込まないでほんとまじで。
そんなこんなで20分ほど走って『アアガン』に着いた。通称ホワイトストリートを南に走って左手にあるネパール料理屋である。駐車スペースに相方と並んで自転車を止める。
「その上着いつも着てるよね。」
「そうねーずっと着てるわ。」
「だからそれ見るとああ君だって分かるよ。」
「それはホント狙い通りだから。」
「え?」
「だから、そのつまり、覚えられやすい、ということ。」
「なるほど。」
夜に近づいて涼しくなりつつあるとはいえ、身体が火照ってじわりと汗をかいた。着ていた緑色の上着を脱ぐと汗が気化して少し肌寒くなる。服は上着だけでもいいから同じものを着た方がいい、なぜなら覚えられやすいからだ。相方はそれで私を覚えていたらしい。
「アアガン。」
「アーガン?」
「アーガン。」
「アーガン。」
「そうアーガン。」
もはや発音は気にしないし、何より食欲が上がりつつあったので無駄に話を長くする考えはなかった。