かすてらすねお。

見聞録的ななにか。

なぜ『古畑任三郎』は二回目も面白いのか

本題と関係ないが、日記として見た経緯を書いておく。

つい先日 Netflix に『古畑任三郎』が追加されていて驚いた。ある回で使用されている曲の著作権とか出演者とかの問題で再放送が難しいとされる回があり、いくら三谷幸喜が脚本の人気作品とはいえ、そこそこ昔の作品が今になって配信に乗るとは思わなかったのだ。これは観たいと思った。

著者の私は家族と二人で Netflix を観ながら夕飯を食べるのが習慣で、ちょうど三谷幸喜が脚本の映画『THE 有頂天ホテル』(2006) と『ザ・マジックアワー』(2008)を観終えたのだった。

昨今の刺激の強い「ドパ」な映像コンテンツにハマりやすい私と家族が、果たして 20 年前の映画を楽しめるのだろうかと不安ではあったが、両方とも面白かったし、家族は『有頂天ホテル』を「人生で一度は見ておきたいと思った」(うろ覚え)と褒めてくれた。

これはチャンスと、Netflix で次に見る作品に「三谷幸喜だから」と私のつたないプレゼンで『古畑任三郎』をすすめたところ、刑事ものがあまり好みではないという家族が首を縦に振ってくれた。ヤッター!

 

さて、ここからが本題である。

私が『古畑』を見るのは学生以来だが、内容を大まかに覚えている回が多かったが、ネタバレを知っていても二回目の視聴を楽しむことができた。通常、「推理もの」は犯人やトリックを一度知ってしまうと、二回目はそれを推理する楽しみが失われてしまう。にも関わらず『古畑』は二回目も楽しめた。

これはなぜだろうか?

 

楽しみの一つは、古畑という人物にある。ストーリーを紹介すると、『古畑任三郎』は主人公である警部補の古畑任三郎(ふるはた・にんざぶろう)が殺人事件の犯人を推理・特定し、犯人に犯行を認めさせ、事件を解決する。

『古畑』の刑事ドラマとしての特徴は、冒頭に犯人の犯行シーンがあり、視聴者は誰が犯人であるのかを知らされることである。そして、あえて映されなかった犯人の小さなミスを古畑が発見し、犯人を自供に追い込んでいく。つまり、視聴者は「犯人が誰か」ではなく「事件解決の手がかりは何か」を考える構造なのである*1

同じく殺人事件を捜査する『名探偵コナン』にはたいてい複数の容疑者がいて、コナンは「複数の容疑者のうち誰が犯人なのか?」を明らかにするのだが、『古畑』では容疑者が最初から一人である。

『古畑』を見る時は「誰が犯人か?」はどうでも良くて、「どんなミスをしたのか?」あるいは「どんなミスだったっけ?」と考え、そして「古畑はどうやってミスを発見するんだっけ?」に関心が向き、古畑の行動に没入していくのである。このように、犯人や犯人のミスを覚えていてもそんなに問題ならないのが『古畑』の良さの一つであり、古畑への注目が楽しみの一つとなるのである。

 

もう一つの楽しみは、犯人にある。古畑は容疑者の怪しい点にすぐに気が付き、怪しんだ容疑者にはアプローチをかけまくる。犯人も「私を疑っているんですか?」と古畑を警戒することもしばしばだが、古畑は威圧的ではなく真摯かつ丁寧な口調と態度で犯人に接するため、犯人も苛立ちを見せることはあれど「あなたのやり方は乱暴だ」などと古畑を突っぱねきれないようにも感じられる。

シーズン 1 を振り返ると、多くの容疑者は初歩的なミスを犯しがちである。犯行を全て見ている視聴者はどうすれば犯人だとバレないかを客観的に把握できるがゆえに、容疑者の犯人と疑われかねない言動が愚かに映ってしまうし、「良かった、まだ古畑にバレないぞ」などと犯人の味方をしてしまう。挙句、犯人に古畑に犯人が古畑から決定的な証拠を突きつけられると、なぜか視聴者が「それは擁護しようがない」などと後方友達ヅラで観念してしまう。

疑わしい言動にせよ、初歩的なミスにせよ、共通するのは人間らしいミスだということだ。このたぐいのミスは、何がミスなのかをあらかじめ知っていれば防げるが、そうはいかないという意味では予定調和ではない。犯人の予期しないミスが引き出されていく古畑と犯人の会話劇は予定調和には映らないように見える。先ほどは「どうすればバレないかを知っている」などと言っておきながら、古畑を前にすると自分も同じようなミスをしてしまうのではないか、とやってもいない犯罪で考えてしまう。

人間らしいミスは、視聴者が犯人役を自分事として引き受けさせてしまう効果があるらしい。だから、古畑と犯人の会話劇に没入してしまうのだろう。回によって、犯人のミスの仕方も違うし、古畑のアプローチの仕方も変わる。犯人の罪を犯した人間としての人間らしい愚かしさが、もう一つの楽しみだと言える。

 

こうして考えると、『古畑』は視聴者は古畑にも犯人にも関心が当たるようになっていて、人物に(愚かしさも含め)魅力を感じられる構造になっている。だから、回を重ねてもマンネリを感じないのかもしれないし、もう一度見てみたいというモチベーションが湧くのだろう。シーズン 2、シーズン 3 は趣の異なる事件も加わってきたような記憶があるが、ここまで考えた魅力は通底しているはずだろう。

 

以上! 続きが楽しみ!

*1:海外刑事ドラマの『刑事コロンボ』が元ネタらしい。参考:古畑任三郎 - Wikipedia

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