弊社はお盆期間ずっと休みだから公共機関もみんな休んでいるだろうと思い込んでいたので、市役所が普通に開いているなんて思いませんでした。本当に頭が上がりません。ということで、今日は8/14(金)に浜松市役所に行って「フリガナ」を変えてきた話をします。
まえがき
私は浜松市内のIT中小企業に今年の新卒で就職しました。業種としてはソフトウェア・エンジニア/プログラマーといったところで、元々プログラミングが得意でアルバイトをしていたこともあり、その会社が気に入ってそのまま就職したクチです。
本題に入る前に説明しなければならないのは、私が男性の肉体に生まれながら女性としての社会生活を送っている(トランスジェンダー女性(MtF))こと、社内では女性社員として扱ってもらっていること、そして自ら希望する「通称名」の「咲紅(saku)」を平時のコミュニケーションで使用していること、でしょう。
戸籍上の名前は「雅人(masato)」といい、この名前も非常に気に入っています(詳しくは別記事)。しかし、就職以降に女性として通用しうる見た目を急速に備えていくにつれて、社会通念上は男性名とされる「雅人」を他人に対して名乗る場面で感じるチグハグな感覚に違和を覚え、悩まされるようになってきました。このことで、自分の社会的に通用する名前を、将来的に男性的なものでないものに変更したいという思いが強まったのです*1。
戸籍上の「名」を変更するには家庭裁判所の許可が必要ですが、そのためには望んでいる「名」として社会生活を送っている実績、つまり使用の実態を証拠として提出しなければなりません。例えばトランスジェンダーの知人は、それまで貯めていた10年分以上の年賀状のハガキや手紙などの郵便物をどさっと出したそうです(この方はたまたま10年以上貯まっていたのを提出していて、手続きに必ず10年以上も必要という意味ではありません)。これを聞いて、戸籍に登録されている「雅人」という漢字を「咲紅」に変更するのはそこそこ時間がかかりそうだと察しました。
ところが、ある日この知人から「名前の読み方だけでも役所で変えてもらえる」という話を聞きます。つまり、「雅人」という漢字はそのままで、読み方を「さく」にすることができる、という話です。とりあえず役場に行って必要な手続きを教えてもらえば? というアドバイスをもらい、市役所に向かうことにしたのがつい2日前でした。これでようやく本題です。
いざ市役所窓口へ
浜松市役所1階の正面右側の区民生活課にある戸籍届の窓口へ行きました。対応した職員さんに「戸籍の名前のフリガナを変えられるということを聞いたんですけど、それって実際にできるのか、どういう書類を書く必要があるのか知りたくて来ました」と伝えると、職員さんは丁寧に次のことを教えてくださいました。
- 戸籍に「フリガナ」の欄はない。
- 浜松市の住民票にも「フリガナ」の欄はない。
これを聞いた瞬間に思わず「えっ?」という声が出て、二度確かめるほど驚きました。自分の名前の読み方は、国によって管理されているものだとばかり思い込んでいたからです。「そっか、ないんだ…」と自ら納得するようにしばらく独り言が出ていました。
職員さんに浜松市の住民票の見本を見せてもらうと、たしかにフリガナの欄が見当たらない。住民票のフォーマットは自治体によって異なるので、フリガナの欄の有無は自治体によるかもしれないが、少なくとも浜松市の住民票には「フリガナ」の欄はないです、とのこと。
つまり、フリガナを変える以前に、フリガナという情報自体が無いのです。戸籍については戸籍全部事項証明書(従来の戸籍謄本に代わるもの)で確認できるけど、そこは職員さんのプロの言葉を信じるということで。
そこで、(あれ? でも出生届にはフリガナ欄あったよな?)と気がつく。どういうことか。職員さんの説明によると、行政のシステム内部で住民検索に用いる情報として一人ひとりのフリガナを管理しているのだそうです。
そして今回変えたのが、この行政システム内部で管理しているフリガナです。こちらが書き込んだ書類の「申出書 兼 職権修正書」。
これで「氏名フリガナ」が変更できました。ただしひとつ注意点として、令和2年8月14日に私がこの書類で名前のフリガナを変更したことを、市は証明することができないと説明を受けました。これは手続きが存在していないということでしょう。
変更に際しては、旅券の有無(持ってません)やフリガナを登録しているクレジットカードなどを揃えていかないと不都合が生じる可能性について職員さんから丁寧に説明を受け、確認しました。そこでまさかの伏兵に遭遇。
そう、私はマインバーの個人カードを発行する時の無料オプションで、氏名の点字刻印をしていたのです。「こんな所におったんかワレ!」と可笑しくなって思わず笑っちゃいました。「なぜ入れた?」と言われると……せっかくだから? もったいない病です。
職員さんはどうします? と丁寧に確認してくださったんですけど、自分としてはバレて特段困らないしバレるシチュも限定的だしってことでそのままにしました。仮に今後改名する際は個人番号カードも再発行しなければならないので、その際に「さく」で刻印したいですね。
職員のSさんにひとこと
職員さんにもひとこと触れておきたいです。私のような当事者の状況が個別的でケース・バイ・ケースであることをよくご理解くださっているようで、私を傷つけないように言葉を選び、私の要望や意図を丁寧に汲んでくださいました。
また、おそらく配慮の一環として、センシティヴと思われるような事柄を私に質問する際は、窓口のビニール越しで聞くのではなく、私が座っている反対側まで出てきて、私の隣のそばで声量を落としながら丁寧に説明してくださいました(マスクはもちろん!)。職員のSさん、本当にありがとうございました。
そもそも戸籍というのが個人情報とプライバシーの塊なので、トランスジェンダーだからということではなく、相談者への慎重な配慮に重きを置いた対応を常日頃なさっているのだと思います。
しかし、それを抜きにしても、トランスジェンダー当事者の境遇が様々であることを理解していなければ出てこない質問がきちんと出てきていたところに、職員Sさんの深い理解がにじみ出ていて、そこに大変感動しました。
まとめ
自分の名前はフリガナすらも国や自治体に管理されていて、そこから証明されなければならないものだ、という思い込みが破壊されたことが、やはり大きな収穫だったと思います。
それを知っているだけで、フリガナを、自分の名前の読み方を変えていける可能性を大きく感じるようになりました。
自分の持っているもので名前のフリガナの載っているものはクレジットカード、会社の社会保険証、銀行口座くらいですが、やはり買い物で頻繁に差し出すクレジットカードの名義をまずは変えたいなと思っています。
この記事が、名前のフリガナについて疑問を持っている人々の役に立てられたら嬉しいです。
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*1:戸籍の名を気にしなくても生きていけるじゃんっていうスタンスもあるんでしょうけど、例えばゲームの最終リザルトに載る名前みたいなもので、死ぬときは誤りでない名前がいいです。